40人に1人の外国人

アジ研夏期公開講座2021

アジア経済研究所(アジ研)では、毎年夏に「夏期公開講座」を実施しています。昨年は新型コロナの影響で中止しましたが、今年はオンラインで実施することになり、8月12日(木)に今年の第一弾として「在日外国人労働者が直面している課題と今後の展望」を開催しました。

講座の構成は一コマ45分の全四コマで、一コマ目に私が「総論 在日外国人労働者と途上国の開発問題」をお話しし、二コマ目に国立国際医療研究センターの藤田雅美さんが「外国人コミュニティへの情報普及活動から学んだこと」と題する報告を行い、三コマ目にNPO法人国際活動市民中心(CINGA)の新居みどりさんが「コロナ下における外国人相談の課題」を話してくださいました。最後の四コマ目は登壇者三人によるパネルディスカッションでした。

午後一時から四時半までの長丁場で、しかも有料講座だったのですが80名以上のお申し込みを頂き、当日も70名ほどの方が最後まで視聴してくださるなど、この問題への関心の高さがうかがわれます。

300万人に近づく在日外国人

現在、日本に在留している外国籍の方々の数は約289万人(2020年末・入管統計)です。実は2019年までは一貫して増加しており、新型コロナが流行する直前の2019年末の数は293万人でした。コロナがなければ、2020年末には300万人を突破していたかもしれませんし、コロナの混乱が落ち着けばこの増加トレンドはまだしばらく続くものと考えられます。

一方日本の人口は約1億2000万人です。こちらの方は一貫した減少傾向です。そこで日本に住んでいる外国人を300万人とすると、300万/1億2000万=2.5%、つまり日本に住む人口のうちの40人に1人は既に外国人だということになります。そしてコロナが終息すれば分子の増加は続き、分母の減少は続くでしょうから、この比率が増えることはあっても、減ることは当面ないでしょう。

皆さんは、この数字をどう思われますか?日本では長く「ガイジン」というのは、珍しい存在でした。めったにいないから珍しかったのです。もちろん、日本語の「ガイジン」には白人しか含まれていない、というバイアスがかつてはありましたが、今では、日常的に目にする外国人のほとんどはアジア系の方々です。

実際、コロナ前まではコンビニにも、居酒屋にも当たり前のようにアジア系の人がいる光景に、我々日本人も慣れつつありましたね。しかし、40人に1人というのはちょっと驚きです。例えば学校の一クラスが40人だったら、その中に必ず一人は外国人がいるということです。心の準備、できてますか?

外国人労働者

日本の外国人をめぐる報道などで、ちょっと混乱するのは「在留外国人数」と「外国人労働者数」が使われていて、紛らわしいことです。
「在留外国人数」というのは上にあげた300万人に近い数字です。総数ですね。そして、当然ですがこれらの人がすべて働いているわけではありません。子供や老人は労働市場には参入していないし、家族として滞在している人も働く必要がいない人もいれば、働きたいけど「働く資格がない」人もいます。そうなのです、外国人はビザ(滞在資格)によっては、働くことが禁じられているのです。

というわけで、現在の日本の外国人労働者数は、172万人(2020年10月現在・入管)です。彼らが、日本の経済・社会を支えているのです。というのも、日本人がやりたがらない仕事を担っているのが彼らだからです。外国人労働者は近年急増しており、初めて100万人を超えたのは2016年の事です。そこからわずか五年足らずで70万人も増えたことになりますね。

以下の数字は、話を単純化するためにかなり大雑把な繰り上げ、繰り下げをしているので正確なものではないことをお断りしたうえで、ざっくり言うと…。この172万人のうちの1/3(32%)は「身分に基づく滞在」をしている人たちです。日本人と結婚している外国人や、日系ブラジル人などがこれにあたり、彼らはどこに住もうがどこで働こうが自由に選ぶことができますし、家族と一緒に住むことも可能です。また、全体の5/1(21%)は特定の技術などを持っていることが認められて日本に滞在が許可されている人たちで、彼らは家族を帯同することもできるし、申請した職種であれば転職も自由です。入管用語では「技人国=技術・人文知識・国際業務」と呼ばれるビザを持っている人たちです。

そして全体の1/4(23%)が、今話題の技能実習生です。彼らは来日する前からどこの会社に行くかが決められていて、転職することはできず、また基本は三年で帰国することが想定されているので家族の帯同も許されません。別の1/5(21%)が「資格外活動」として働いている人たちで、ほとんどは本来の資格が「留学生」です。彼らは留学ビザで滞在しているので、学校をやめたら滞在資格が無くなります。また、本業は学生ですから働くのは「アルバイト」で、学業に支障がないように週の労働時間は28時間以内と定められており、これに違反することは「違法労働」になります。

コロナ下の外国人労働者

さて、今回の公開講座で焦点を当てたのは、コロナ下の外国人労働者、その中でも特に様々な課題に直面しやすい「技能実習生」と「留学生」でした。外国人労働者が急増している背景には、技能実習生の急拡大(約40万人・2020年)と「留学生30万人計画」があったのです。

技能実習生については、昨年(2020年)から、しばしば新聞報道などでも話題になることが多いですね。そもそもコロナ以前から、劣悪な労働環境にに耐えかねて「失踪」する技能実習生が問題視されていました。2018年一年間で9,052人の技能実習生が失踪しています。そのうちの5,801人はベトナム人です(JITCO白書2019)。失踪率3%は小さい数字ではありません。

失踪する理由は、過酷な労働、周囲の人々による人権侵害、長時間労働、低賃金、賃金未払いなどですが、ほとんどの場合「実習現場」を離脱すると、その時点で滞在資格「技能実習」が無効になります。そして、パスポートは雇用主に取り上げられたままであることが多いので、失踪すると自分のパスポートも失うことになります。つまり「非正規滞在」になってしまうわけですね。これに加えて、コロナによって働いていた職場が操業停止したり、倒産したりすればやはり収入の道が断たれてしまいます。それでも、なんとかして生きていかなければなりません。加えてコロナに感染しないための予防措置も必要ですが、そのための情報や知識がきちんと届きにくい、という問題があります。

留学生の方も、アルバイトで生活費を稼いでいた人たちはコロナによる経済停滞で失職すると、生活の糧を失います。収入がないと家賃が払えずに「ホームレス」状態に陥る人も出てきて、そうした人たちは同郷人を頼ってアパートに転がり込み「三密」状態で暮らすことで「クラスター」が発生するリスクが高まります。また、学費が払えなくなると退学となりますが、そうするとビザがもらえず、非正規滞在になります。

非正規滞在になった失踪者や退学になった留学生は、入管に見つかると強制退去させられる可能性もあるので、行政サービスにはアクセスしづらくなります。

また、「技人国」で滞在している人の中にはインド料理店などで「コック」をしているネパール人も少なくありません。彼らの滞在資格は安定していますが、働いているレストランの経営が苦しくなると失業する可能性が高くなります。また、彼らが帯同している「家族」もまたレストランで働いていれば、やはり経済停滞のあおりを受けます。そして、こうした人たちも狭い家に密集して住んでいるので、コロナのクラスターが発生しやすい環境となります。

PCR検査、陽性対応、ワクチン

日本にいる外国人は、よほど日本語が堪能な人以外は日常生活でも『言葉のハンデ』を負っています。このことが問題になるのはまず「災害時」です。緊急事態になっているという情報や、どこかに避難しなければいけないという情報も基本的には日本語で行われるので、外国人は情報から取り残されることで、命の危険にさらされやすくなります。

新型コロナが流行している現在も一種の「災害時」ですから、流行蔓延を防ぐという公衆衛生的な観点からも外国人に正確な情報を迅速に伝え、かつ必要なサービスを受けることができるようにする必要があります。これが、昨年春以降国立国際医療研究センターの藤田さんや、CINGAの新居さんが奮闘してきた課題なのです。

実際、新居さんの主たる職場である「外国人相談センター」には「PCR検査を受けたいがどうすれば受けられるのか」「発熱が続いていてコロナが疑われるが、どこに行けばよいのか」「一緒に住んでいる人がコロナ陽性になったが、自分たちはどうすればいいのか」「ワクチンを打ちたいが、どこに行けば打てるのか」と言った問い合わせが多く寄せられ、その都度『言葉の壁』のみならず、「制度の壁」「在留資格の壁」「保険証有無の壁」などを様々な工夫で乗り越える努力をされてきたようです。

私も初めて知りましたが、現在全国には214の「外国人相談窓口(ワンストップセンター)」があるそうです。多くは自治体が設置しています。ただ、最大の問題は当の外国人はその存在を知らない、ということだというのです。いくら自治体がホームページで多言語で説明していても、そのホームページを訪れてくれなければ情報は届きません。

外国人コミュニティに情報をとどけるためには

藤田さんの報告の中には「間違いだらけの外国人向け情報発信」というスライドがあって、実証済みの間違いが指摘されていました。一つ目は「公的機関のホームページに多言語情報を載せておけばよい」という間違いです。普通、外国人は市役所や町役場のホームページに関心はありません。考えてみれば当然ですね。しかも、張り切って十数言語に訳してみても、きちんとした通訳がいない場合グーグル翻訳などで、ネイティブにとってはちんぷんかんぷんの文章になっている、ということも少なくないそうです。そんな文章であればたまに見に来る人がいても、二度と訪れてはくれなくなりますね。

では、どうすればいいのか。いろいろ聞いてみるとどうやら在日外国人コミュニティの人々は、どの国の人もスマホをツールにして「フェイスブック」で情報をやり取りしているらしい、ということがわかりました。そこで登場するのが二つ目の「外国人関係団体にフェイスブックを通じての情報拡散を依頼すればよい」という間違いです。実際、藤田さんたちはこれを試みましたが、それぞれの団体にはそれぞのポリシーがあり、いきなり日本人から投稿依頼があってもなかなかその意図が理解されにくく、おいそれとは拡散してもらえませんでした。それならば、ということで登場するのが三つ目の間違い「外国人向け巨大フェイスブック・ページに投稿すればよい」です。調べていくうちに、それぞれの在日外国人コミュニティには、母国語で発信し多くのフォロアーを持つ有力フェイスブックページがあることがわかってきたのです。そこでそのページに、同国人を装って母国語で拡散したい情報を投稿してみました。しかし、記事に関心がなければ拡散されません。興味のない記事は読まれないのです。

現在、藤田さんたちがたどり着いているのは、こうした有力フェイスブックの運営者に直接相談し、記事内容も当該コミュニティの人に関心を持ってもらえるようなものとして、発信するという戦略です。ある種の「参加型情報提供」ですね。まずはベトナム語でトライしているようですが、まずまずの成果が上がっているようです。詳細は『みんなの外国人ネットワーク(MINNA)』のホームページ、フェイスブックをご覧ください。
ベトナム、ミャンマー、ネパール人コミュニティへの新型コロナウイルス情報普及活動の経験 | みんなの外国人ネットワーク ソーシャルプロジェクト (sdg-mig-social.org)
(4) MINNA ヘルスプロジェクト / MINNA’s Health Project | Facebook

さとかん【在日外国人問題 2021/8/16】

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