アナザーエネジー

72歳から106歳までの女性アーティスト

六本木ヒルズの53階にある森美術館に初めて行きました。開催中だったのは「アナザーエネジー展」。サブタイトルに「挑戦し続ける力–世界の女性アーティスト16人」とあります。もともと4月から9月末までの予定だったものが、来年1月まで会期延長になったので行くことが出来ました。パンフレットによれば、出展している16人の女性アーティストは「全員が50年以上のキャリアを積んで」いるのだそうです。
アナザーエナジー展: 挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人 | 森美術館 – MORI ART MUSEUM

出身国も、表現方法も、モチーフもバラバラなので、あえて共通項を探すとすれば「元気いっぱいのおばあちゃん」達、ということでしょうか。

遊ぶ人たち

先進国のアーティストは、モチーフに関わらず、表現方法に様々な創意工夫を凝らすことに注力し、そこに遊び心を満載する傾向にあるように思えました。

最初の部屋に鎮座しているのは、ロンドンのフィリダ・バーロウの、バドミントンコートくらいの広がりの造形物『アンダーカバー』(2020)。使われているのは、「木材、合板、セメント、スクリム(布)、石膏、ポリウレタンフォーム、塗料、PVA(合成樹脂)、キャラコ(布)、鋼鉄」。これは、このまま持ち運べるような図体のものではないので、この会場で組み立てたのでしょう。説明には「サイズ可変」とあります。

ベルギーのリリ・デジュリーの『無題(均衡)』(1967)という作品は、工事現場で拾ったような鉄筋二本と鉄板一枚を組み合わせたインスタレーション。今回の会場では唯一窓のある部屋の床に設置されており、六本木ヒルズ53階からの東京風景をバックに鎮座していました。なんて贅沢な空間の使い方、と思いましたが、一緒に行った友人は「意味不明」と一言。

日本出身の二人のアーティストの作品も、遊び心の発露という感じでした。ニューヨーク在住の宮本和子の『黒い芥子けし』(1979年)は、部屋の隅の二面の白い壁に針を用いて黒い糸を幾何学状に張り巡らせてあります。これも「サイズ可変」。展覧会の都度、壁に針を刺さないといけないのでしょう。

最後の部屋の三島喜美代のインスタレーションも、見てすぐ納得できる遊び心に満ちていました。確かに空き缶や段ボールであふれたゴミ箱や、大量の古紙の山に表象されているのは、解説にあるように「大量消費社会や情報化社会への批判」でしょうが、それをわざわざ「陶器」で作るのは、良い意味での「道楽」と呼びたい気がします。

闘う人たち

これに対して途上国出身の人たちは、「抑圧」をはねつけようとするエネルギーが正面から感じられます。特に南米の人々はその方向性が強いように思いました。ブラジルのアンナ・ベラ・ガイゲルは、徹底的にブラジルの地図にこだわり、植民地的な圧政、先住民への弾圧の痕跡を告発するエネルギーにあふれています。

コロンビアのベアトリス・ゴンザレスは、中米の政治的な混乱、コロンビアの内戦に対する怒り、抗議のメッセージが伝わる作品群を展示しており、虐げられる人々の痛々しさが伝わってきます。『縁の下の嘆き―携帯電話を持って嘆く』と『縁の下の嘆き―ハンカチを持って嘆く』の二枚のポスターは2018年ボゴタ市内のいたるところに「広告を装って」数百枚が掲示されたのだそうです。

アメリカ西海岸のスザンヌ・レイシーはマジョリティーの白人ですが、フェミニズム運動への取り組みに、様々なイベントを企画することで果敢に挑んできたようです。固定した作品を作るのではなく、むしろイベントプロデューサー、という感じです。解説には「ソーシャリ―・エンゲージド・アートの先駆者」とあります。へえ、そんなアートのジャンルがあるんですね。

展示室の大きな壁に並んだ三枚のスクリーンに映写される『玄関と通りのあいだ』という一種のドキュメンタリービデオは、2013年10月19日、365人の活動家がブルックリンの住宅街の一角に集まって実施したパフォーマンスの様子を3チャンネルで記録したものだそうで、会場には映画館のように観賞用のベンチが並んでいました。

ミリアム・カーン

16人の中で、私が一番気になったのは最年少のミリアム・カーン、72歳。スイス生まれのユダヤ系だそうです。コーナー最初の絵は裸の女性が、ペニスを勃起させている裸の男性の顔面をストレートパンチしている『人としての私』(2018年1月1日と9日)。一見するとよくあるDVの逆バージョンですが、込められたメッセージはこの絵ほどにはストレートではなさそうだ、ということが直感されます。

男女の裸体(それも性器に注目した)をモチーフにする作品が多い一方で、「逃げていく人々」のモチーフも強い印象を残します。『美しいブルー』(2017年5月13日)には両手をあげた人々のシルエットがブルーの背景の中に描かれていますが、ヨーロッパへの難民流入が増加したことがその背景にあるとのこと。難民としてギリシャに渡ろうとしたシリア人の家族が乗っていたボートが転覆、アイラン・クルディ君(3歳)の遺体がトルコのリゾート地の浜辺で発見され、その写真がヨーロッパ世界に衝撃を与えたのは2015年の夏(9月2日)でした。シリア3歳児の溺死写真が波紋、世界中が難民問題から目をそむけられなくなった(閲覧注意) | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

展覧会のポスターやパンフレットの表紙にもミリアム・カーンの『無題』(1999年12月29日)が使われているのですが、彼女の裸体と性器への執着と、逃げ惑う人への注目が、いったいどのように結びついているのか、とても気になってしまいました。

私は今回初めてミリアム・カーンという人の作品を知りましたが、既に日本では何度も展覧会が開かれているようで『美しいブルー』は六本木のギャラリー「WAKO WORKS OF ART」の所蔵で、他にも彼女の作品が見られるようです。

【2021/10/20】

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