国連特使の調停活動(イエメンはどこに行く19)

四人目の国連特使

2011年の「アラブの春」の余波で、イエメンのサーレハ大統領が辞任し、国連や周辺国(湾岸協力会議:GCC)の調停のもとで「移行期間」が始まって以来、国連事務総長は「イエメン担当国連特使」を任命し、イエメンの民主化移行を支援しようとしてきました。

初代特使はモロッコ生まれのジャマル・ベノマール(Jamal Benomar:2015年3月のサウジ空爆開始で辞任)、二代目はモーリタニア出身のイスマイル・シェイク・アハマド(2018年2月まで)、三代目はイギリス人のマーティン・グリフィス(2021年7月まで)、そして今年8月に第四代特使としてスウェーデン人のハンス・グルンバーグ(Hans Grundberg 前EUイエメン大使)が任命されています。グリフィス特使はスウェーデン政府と共に2018年12月のホデイダ停戦を実現させた実績がありますが、国連イエメン特使が緊急協議、ホデイダの支配権移譲でフーシ派幹部と交渉か 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News それ以降ハーディー政権とホーシー派との和平交渉に進展は見られませんでした。グリフィス氏は離任にあたって、イエメン調停におけるオマーン政府の役割を評価する発言をしています。国連イエメン担当特使 オマーンの和平仲介努力の結実に期待|ARAB NEWS

新特使の活動開始

国連イエメン人道支援グループの発表によれば、グルンバーグ特使は9月中旬にリヤドを訪れ、ハーディー政権の主だった人々との最初の意見交換を行ったそうです。面会したのはアブドルラッボ・マンスール・ハーディー大統領、アリー・ムフセン副大統領、スルタン・バラカーニー国会議長、マイ―ン・アブドルマリク首相、アハマド・ビンムバーラク外相などです。また、GCCの事務局長ナイフ・アルナジユラフ氏やサウジ政府の関係者、さらには国連常任理事諸国の駐サウジ大使らとも会見したそうです。

グルンバーグ氏はハーディー大統領に対して「 諸勢力の主張に耳を傾け、全てのイエメン男女が熱望している、包摂的で包括的(inclusive and comprehensive)な政治的解決のための、真摯で持続的な対話を促していく」という方針を説明し、「すべての勢力の、信義に即した真剣なコミットメント (a serious commitment by all parties to engage in good faith) が国連による和平調停を進展させるための前提条件である」ことを指摘したとのことです。

ハーディー政権の主要閣僚の多くは、イエメン国内には住んでおらず半ば亡命状態でリヤドに事務所を構えています。他方、ホーシー派の主だった人々はサナアに陣取りイエメン山岳部のほとんどを実効支配しています。両勢力の幹部は、もちろん生活の不自由はあるにしても、別に現状でそれほど困っているわけではないのかもしれません。しかし、国民は確実に困窮しているのです。そして紛争の長期化によって、生活を取り巻く状況は悪化する一方です。

イエメン人自身による解決

「世界最悪の人道危機」を一刻も早く終わらせること、それが国連特使に期待されることです。しかし、特使だけの力で何かが達成できるわけではありません。イエメンの平和のために国際社会がなすべきは、紛争当事者が現状維持でもなんとかやっていけるような状況を許さないこと、ではないかと思います。そのためには「余計な荷担をしないこと」が不可欠です。イエメン内戦は、国内諸勢力の対立もさることながら、地域大国の代理戦争の様相が色濃いことは当初から指摘されています。サウジアラビアやイランなどの周辺国が、イエメン人自身の手による解決を妨げないことが、何よりも重要だと思います。

グルンバーグ氏も述べているように、国連特使は「イエメン人主導の政治的解決 (a Yemeni-led political process)」を「支援」する以上のことはできないのですから。

【2021/9/23 イエメンはどこに行く19】

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