イエメンに来る難民(イエメンはどこに行く・18)

ジブチのイエメン難民キャンプ

2015年以来の内戦状態で、多くのイエメン人が爆撃や戦闘を避けるために自ら家を捨てることを余儀なくされています。アフガニスタンでは、こうした人々はパキスタンやイラン、さらにはトルコに向かっています。シリアの人々はヨルダンやトルコ、さらにはヨーロッパに向かっていきました。

ところが、イエメン人は難民となって国外に出て行っている人は、実はそれほど多くありません。その代わり国内避難民(IDP: Internal Displaced People)となっている人が、人口の一割、300万人以上いると言われています。なぜかというと、イエメンが国境を接しているのはサウジアラビアとオマーンといういわゆる「湾岸産油国」であり、これらの国は同じアラブからであっても「難民」は受け入れないので、流出する経路が詰まっているのです。

もちろん、お金を払える人々は飛行機で脱出しますが、それ以外の人は、陸路が閉ざされているので国内にとどまらざるを得ないのです。もちろん、紅海の向こう側にはアフリカ大陸があるので漁船などで(これにもお金はかかりますが)対岸のジブチに渡ることができた人は、そこに用意されているイエメン人用の「難民キャンプ」に逃げ込むことができます。イエメンに支援を行っている数少ない日本のNGOの一つであるアイキャン(ICAN)が、このジブチでのイエメン人キャンプを支援をしています。子どもの保護活動(ジブチ) | 中東・アフリカ | 特定非営利活動法人アイキャン(ICAN)

このアイキャンの活動はジャパンプラットフォーム(JPF)のイエメン支援事業資金を得ており、JPFは2017年3月22日に東京でセミナーを開催し、私も報告しました。3月22日開催 ジャパン・プラットフォーム主催 「イエメン人道危機対応」プログラムイベント「イエメン最新レポート:紛争激化から2年、イエメン人が語る人道危機」|最新情報|国際協力NGOジャパン・プラットフォーム(JPF) (japanplatform.org)

イエメンに来る難民

何とか国外に逃げ出したいイエメン人がいる一方で、実はイエメンに流入してくる難民もいるのです。伝統的に対岸の「アフリカの角」からは、常にソマリア人が難民としてイエメンを目指し、イエメン各地にソマリア人のキャンプがありました。サナアやアデンではイエメン人がやりたがらない仕事をして日銭を稼ぐソマリア人も少なからずいたのです。2015年に内戦が始まった当時でも、国内に一万人以上のソマリア人がいました。彼らも、どこにも行くところがない人々なのです。

と、ここまではそれほど驚くような話ではないのですが、IOM(国連国際移住機関)によれば、2019年にイエメンにやってきた難民は138,000人とのこと。え、内戦のイエメンになんでわざわざやってくるの?そのほとんどはソマリアあたりから来るものと思われますが、イエメンの方がまだソマリアよりまし、ってことなのでしょうか。さすがにこの数字はコロナの始まった昨年は37,500人に減少、今年2021年は今のところ11,500 人の難民が流入しているとのこと。

そして今日届いたIOMのレポートには、イエメンに密航してきたエチオピア人が、陸路サウジを目指していたところ、イエメン国内の戦闘に巻き込まれて重傷を負った、という話が含まれていました。Young Migrants Survive a Near-Death Experience Crossing War-Torn Yemen – Yemen | ReliefWeb

エチオピアから来たビラール君

ビラール少年の話は以下のようなものです。

サウジに行って職を得れば、豊かな生活ができるようになる、という夢を追いかけて、18歳のビラール君は故郷のエチオピアから港のあるジブチまで行きます。そこから船で(密航船です)アデン湾に乗り出し、東に進んでアデン東方のシャブワ州の海岸に上陸します。アデンの近くに上陸しないのは、戦闘が頻繁に行われており、沿岸警備も厳しいからでしょう。そして、陸路アデンに向かって西に移動します。

アデンには、もともとソマリア系の難民も多く、エチオピア系のイエメン人もいたりするのでアデンにたどり着けば、とりあえず一安心です。とはいえビラール君は「イエメンに着いた時には誰にも助けてもらえず、通りで眠り、空腹で病気にさいなまれていた」と供述しています。

何とかアデンにたどり着いたものの、ビラール君にとってイエメンは通過地でしかありません。最終目的地であるサウジは、まだ1000キロ以上北です。そしてその道中はホーシー派と政府軍の戦闘地域だらけなのです。さらに、コロナ前ならまだ、サウジに入境することはそれほど難しくなかった(イエメンとサウジの間には1000キロ以上の国境線があり、その大半は無人の砂漠です)のですが、コロナ対策のために2020年以降密入国はますます難しくなっています。IOMによれば現在イエメン国内には、ビラール君のようにサウジに行きたくても行けず立ち往生している人が32,000人いるとのこと。

ビラール君は仲間のエチオピア人と一緒にサウジアラビア国境近くのサアダまでたどり着きました。サアダというのは現在サナアを占拠しているホーシー派の拠点都市です。しかし、ここで彼らは襲撃され、銃撃され瀕死の重傷を負います。その後の経緯は詳細には語られていないのですが、ドイツの資金援助でIOMがイエメン国内で実施している「脆弱な立場の移民の保護・救援」プログラムのおかけで、彼らはサナアの大病院に搬送され手術を受けることが出来ました。その後、私立病院でさらに治療を受け、術後はサナアのエチオピア人コミュニティのお世話になって、健康を回復。この度、アデン空港から「自発的人道帰国」をすることになったとのことです。

ビラール君のサウジで一旗揚げる夢はかないませんでしたが、まだ運が良かった方でしょう。戦闘に巻き込まれたり、襲撃されたりしてそのまま放置されれば、誰も知らない異国で命を落とすことになりかねないのです。そうした人も、決して少なくないと思まいす。それでもリスクを冒しても出稼ぎに行きたい、行かなければならない人たちが、わざわざ内戦で困窮しているイエメンにやってくるのです。そんな危険を冒してまで、サウジに行きたいなんて。こんなふうにして、移民・難民は毎日世界中で発生しているのでしょう。

【2021/9/6 イエメンはどこに行く・18】

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