中国、貧困撲滅!?

北東アジア開発協力フォーラム

いささか地味な国際会議ですが、昨日と本日(2021年8月26-27日)の二日間、「北東アジア開発協力フォーラム(North-east Asian Development Cooperation Forum 2021)が、オンラインで開催されました。2014年にソウルで始まって今年で八回目を迎えるこのフォーラムの、旗振り役はESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)の北東アジア支部で、日中韓露の四カ国の開発学会が共催団体となっています。なお、日本からは国際開発学会(JASID)が参加しており、2015年と2019年に会議をホストしています。

本来であれば、四か国の研究者・実務者が一堂に会して研究報告と意見交換を行うのですが、今年は新型コロナの影響で全面オンラインとなりました。二日間で四つのセッションが設けられ、四つの共催団体が一つずつセッションを受け持ちました。

中国は2020年に絶対的貧困状況を脱出した

第三セッションは、中国国際開発研究ネットワーク(China International Development Research Network : CIDRN)のセッションで、中国農業大学のXiaoyun Li(李小云)先生(中国の対アフリカ国際協力では、必ず出てくる有名人です)たちの研究報告でした。その中で、日中韓の「貧困撲滅の歴史」を比較した部分があったのですが、それによると「日本は1960年に絶対的貧困を脱出した。韓国は1990年に脱出した。そして中国は2020年に脱出した」という説明がありました。

私は、この話は初めて聞いたので「え!そうなの?」と思わず叫んでしまったのですが、まあ、統計的にはそう言えるのだと思います。もちろん、相対的貧困は残っているわけですが、日本が高度成長期に「貧しさから脱却した」のと同じ意味で、中国は昨年「貧困状況から離陸した」というのであればそれはまあ、ありそうな話ですね。

もちろん、国内に貧富の格差はあるし、特に中国農村部の生活状況は苦しいものがあるとしても、日本だって1960年代の農村部ではまだまだ、食うや食わずの世帯もあっただろうし、都市の「スラム街/ドヤ街」と呼ばれるような場所は数多く残っていたわけですから。

日中韓の貧困削減の比較

李先生たちの報告で、もう一つ興味深かったのは日中韓の国内貧困削減政策を比較して、共通点を指摘する部分でした。共通点は二つあって、一つは貧困削減と経済発展(GDP)の軌跡が相関している、つまり経済成長に伴って貧困状態が減っていった、という点。もう一つは「政府の介入が強かった」という点だということです。そこで指摘されていた日本の「介入」とは、労働者に手厚い社会政策や終身雇用制度を意味していました。終身雇用を政府の介入と呼べるかどうかわかりませんが、確かに高度成長期には希少な労働力を確保するべく様々な施策がとられたのは事実ですね。「集団就職」のあっせんなども「政府の介入」ということはできるかもしれません。中国の政策が国家介入的であるのは自明ですが、韓国については「セマウル運動」が例示されていました。

もちろん、私たちは戦後農村の「生活改善運動」の研究をしているので、これにも言及してほしかったところですが、まあそれは今後のわれわれの課題としましょう。

そして、さらに興味深かったのは各国の経験を途上国の貧困削減にどのように活用できるか、という議論でした。報告では「日韓の経験はアジアに応用可能、中国の経験はアフリカに適用可能」という、大胆な評価がされていたのです。もちろん、この部分については各国のコメンテーターから異論が提示されていましたが、とにかくこうした議論が中国から出てきた、ということに私はいたく感激したのでした。

ドナーとしての土俵に並ぶ

日本の立場からすると、韓国も中国も日本のODA対象国であったわけですから、「貧困削減の軌跡」を語るときには「ドナーの役割」にも触れてほしかったところです。もちろん、その場合は日本にとっての世銀やユニセフや、そして占領期にドナー的役割を果たしたGHQ(連合国総司令部)についても検討しなければなりません。

しかし、感慨深いのは日本の1960年、韓国の1990年、中国の2020年と、30年のタイムラグでついに三カ国が貧困状況を脱し(国内の相対的貧困については措くとして)、ドナーとしての土俵に並び、相互の開発協力政策を比較するという段階になったことです。

私は、韓国が途上国の農村開発支援のために「セマウル運動」の経験を積極的に打ち出したり、中国が日本のTICAD(アフリカ開発会議・1993年開始)に対抗するようにFOCAC(中国アフリカフォーラム)を2000年に開始したりする動きに注目してきました。日本は日本の経験を途上国に伝えようとし、韓国も自国の特色を打ち出し、中国も自己主張を開始する。途上国にとってはドナーが増えることは悪いことではありません。

開発社会学の立場からの関心は、こうして主張されるそれぞれの国の「特色」が、どれほど異なっているのかです。例えばアフリカから三か国の研修すべてに招かれた人(特定の国の特定のポジションの人が、海外研修の機会を独占することは珍しいことではありません)がいたとして、その人は日中韓のプログラムに違いを見出せるでしょうか?もしかしてら、「ああ、東アジアの国はみんな同じね」という感想を抱くかもしれません。

このあたりのことを、少し深めてみたいとかねがね思っていたので、今回の中国からの報告はとても興味深かったわけです。東アジア三兄弟、自分たちが思っているほどには相互に違わないのかもしれません。

【2021/8/27 開発社会学、日本の経験】

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