イエメン難民(イエメンはどこに行く・17)
日本にイエメン難民?
日本の難民申請者に対する認定率が1%以下と諸外国に比べて極めて低い、というのは関係者の間では有名ですが、昨年(2020/令和2)の入管統計を見ていてびっくりしたことには、イエメン人の難民が11名認定されていたようです。これは国籍別では中国と並んで第一位です。ちなみに昨年の日本の認定者総数は47名です。また昨年難民とは認定しなかったものの人道的な配慮を理由に在留を認めた人44名の中にも3人のイエメン人が含まれていました。この数字に気づかなかったとは、イエメン研究者としてはうっかりしていました。そして入管統計をさらに見てみると令和元(2019)年(難民認定3,在留許可1)、平成30(2018)年(難民認定5,在留許可2)にもイエメン人認定者がいました。01 【連絡先なし】令和2年における難民認定者数等について (moj.go.jp)
ちなみに、昨年度の難民認定申請者数は3,936人で,前年に比べ6,439人(約62%)減少しているそうです。これはコロナの影響ですね。
済州島への流れ
イエメン人がこの極東の国にどうやってたどり着くのか、なぜ日本に来たのかを考える際にヒントを与えてくれるのは2018年の済州島事件です。韓国の済州島は、観光振興の目的で2002年以降世界中のほとんどの国に対して30日のビザなし渡航を許可したそうです。そして2017年の12月にマレーシアから済州島行きの格安航空会社が直行便を開設しました。
一方、2015年の内戦ぼっ発以降、お金のあるイエメン人は国外脱出を試みます。最もポピュラーな行先は同じアラブ諸国であるヨルダンとエジプトです。しかし、行った先でそれなりの仕事をして生活を成り立たせたいと思うなら非アラブ諸国のイスラム圏もねらい目です。というわけで、マレーシアにはかなりの数のイエメン人が流出しているのです。というのも、2015年当時イエメンから直行便があり、イエメン人がビザなしで入国できる国はヨルダンとマレーシアくらいしかなかったから、という話も聞いたことがあります。
そのマレーシアでも、なかなか仕事にありつくのは難しい。そんな時に済州島に直行便が飛び始め、しかも済州島にはビザなしで入国できる、という情報があっという間にマレーシアのイエメン人コミュニティに広まりました。この結果、2017年一年間で韓国に難民申請したイエメン人は42人でしたが、2018年は上半期だけで549名が難民申請するという「ラッシュ」が起きたのです。このあたりのことは、済州島に取材に行った中山茂大さんの報告があります(中山茂大『ルポ済州島に押し寄せたイエメン人』新潮45 2018年10月号)。
ところが短期間に、中東風の風貌の男たちが一気に増えたことで済州島の人々の間には「イスラム教のテロ組織では?」という疑念も生じ、トラブルも起きてしまいました。この騒ぎはソウルにも飛び火し、6月30日には「偽難民を受け入れるな」というデモがソウルで行われたそうです。イエメン難民流入に反発する韓国世論 写真10枚 国際ニュース:AFPBB News
こうした騒ぎを受けて、韓国政府は6月にはイエメン人のビザなし入国特例を停止します。一方でその後、難民申請したイエメン人のうち3人を認定し、さらに443人に就労可能な「人道的滞在許可」を与えました(2020年2月末現在)。彼らは済州島以外の韓国の他の地域に行くことは許されていませんが、それでも合法的に仕事ができるというのはとてもうれしいことであるに違いありません。また、済州島には様々な形でイエメン人を支援する韓国の人もいるようです。韓国で暮らすイエメン難民のいま 2018年、ビザなし済州島に殺到|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)
日本への期待
この済州島騒ぎのあった2018年の日本のイエメン人難民認定者数は上で見たように5人(全42人中)、在留許可は2人です。日本には済州島のようなビザ免除観光地がなかったから、この違いになっていますが、マレーシアに滞留しているイエメン人にとっては日本も韓国同様(場合によっては韓国以上に)行きたい国、稼ぎたい国の候補です。そして、彼らは「本国に帰っても戦乱に巻き込まれる。兵士として強制的に徴用される」リスクが確かにあるのです。
今年の8月以降、アメリカ軍のアフガにスタン撤退に伴い、これまで国連や外国の援助機関で働いていたアフガニスタン人スタッフが、タリバンからの報復を恐れて国外脱出を希望しています。韓国政府は8月25日に軍の緊急作戦で韓国政府に協力していた現地スタッフとその家族390人を脱出させ、27日までに韓国に到着。難民ではなく「特別功労者」として受け入れたそうです。韓国、アフガンから390人脱出成功 特殊部隊「ミラクル」作戦 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
それぞれの国には、それぞれの移民・難民受け入れ政策がありますが、日本もこれまでアフガニスタンに対してODA、NGOを含め多くの支援を行ってきました。当然それに関与した現地スタッフも数多くいるはずです。そうしたアフガニスタン人が、これから日本にやってきたときにどう受け入れるのか。また、現在ヨーロッパにあふれているシリア難民ですが、日本にも一定数はやってきています(過去3年間のシリアからの難民受け入れ数は2018=3人、2019=3人、2020=4人)。そして、イエメン人も。
中東は、日本にとっては遠い異国ですが、世界は日本に「応分の負担」を期待しているのです。
【2021/9/5 イエメンはどこに行く17・イエメン難民】
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