【ブライトン特急・1】《Downs》

  サセックス大学はロンドンの南85km海岸沿いのブライトンから、少し内陸に入った丘陵地帯の中にあります。ロンドンのターミナル駅の一つであるビクトリア駅から、南の行楽地ブライトンまでサザン鉄道の特急で55分。途中クラハムジャンクション、イーストクロイドンという二つの乗換駅以外は止まりません。一時間に二本程度出ているこの列車を私は「ブライトン特急」と名付けています。別に特急券を買わなきゃいけないわけでもないので、日本の鉄道だと「快速」という感じかもしれませんね。   私はこの列車をロンドンからの通勤に使っています。私の住んでいるビクトリア駅近くの住宅街(Pimlico)のアパートから駅まで 徒歩12分(自転車を使えば5分・この話はまたあとでします)、ブライトン特急で55分、ブライトン駅から支線に乗り換えて10分なので、自宅からIDSまでドアツードアで一時間半で到着です。 日本で私は東京を横断して幕張のアジ研まで2時間かかっていたので、それに比べれば早いし、ブライトン特急は必ず座れるので本を読むことも出来ますから、結構快適な通勤です。あんまり一生懸命売る気はないけど車内販売も回ってくるので、朝ご飯を食べずに出ても、車内でコーヒーとクロワッサンくらいは食べられるのも便利です。   イギリスの鉄道はロンドンを中心にして東西南北にそれぞれ別々の鉄道会社が運営していて、始発駅もたくさんあります。南方面に運行している会社はサザン鉄道、サウスウェスタン鉄道、サウスイースタン鉄道、ファーストキャピタル鉄道などがありますが、ビクトリア駅はもともとサザン鉄道の始発駅として作られたようです。ブライトン行きの路線上にロンドンの第二の玄関口ガトウィック空港もありますが、ブライトン特急はガトウィックは通過します。これとは別にガトウィック空港専用の直通ガトウィック特急(ビクトリアから30分)もあります。     ガトウィックを通過したあたりから、周囲の景色が田舎っぽくなり、基本的には牧草地に馬や牛がいる風景が広がります。イングランド南部は石灰質の丘陵地で、あまり土地が肥えていないことも牧地が発達した理由でしょう。この石灰岩の丘陵地をダウンズ(Downs)と呼ぶそうです。ガトウィックから10 分ほど南下したあたりで左右が開け、線路はダウンズ丘陵地帯の真ん中の高台を走ります。どちらを見ても果てしなく緑のなだらかな牧地が展開するこのあたりが、私のお気に入りスポットです。   ここで私はイギリスの牧地、芝生は一年中緑なのだということを知りました。日本の芝生は冬にはかわいそうな茶色になってしまいますよね。和辻哲郎の『風土』にもあったと思いますが、こうした植生と文化は分かちがたく結びついています。だから、日本にゴルフ場を作るのはやっぱりどこか無理があるのでしょう。とはいえ、ダウンズあたりはゴルフ場はあまりありませんが。   そして、ここから10数分南下すると列車はイギリスの南海岸、ロンドンッ子(Londoner)のお気に入りの保養地、ブライトンの駅に到着します。東京にとっての湘南という感じでしょうか。ブライトンは線路のどん詰まりですから、文字通り終着駅(Terminal)です。イギリスの主な駅はこうしたターミナルになっているところが多いですね。それ故に駅舎の建物も大きな屋根を全体に覆った設計で、正面が立派なものが多いのでしょう。日本の駅は東京駅も線路と平行にしか正面が作れませんからね。   私のお世話になっているサセックス大学開発研究所(IDS)に行くには一番端っこの8番線から東方面行きの列車に乗り換えます。この8番線ホーム、床が板張りで列車入り口との間に30センチ以上の落差があります。ちょっと19世紀的な雰囲気の残るこのホームもなかなか良いですよ。 サックス大学のあるファルマー駅はブライトンから三つめ、10分弱で着きます。線路を挟んで進行方向右手にブライトン大学、左手がサセックス大学です。煙突の先端にチムニーポット(素焼きの通気管)を頂くかわいい駅舎を出て線路に並行して走る国道の下をくぐる歩行者用トンネルを抜けると、緑いっぱいのサセックス大学に到着です。     この大学もダウンズのど真ん中にあるのでなだらかな丘陵地形の中に様々な学部が点在しています。IDSは最初の左手の丘の中腹にあり、8角形の建物が目印です。だいぶ長くなってしまいましたね。では今日はこの辺で。【2011/5/20】

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