【ブライトン特急・28】《CCTV》
ブライトン特急の各車両のドアの上には「CCTV監視中」という注意書きが書いてあります。CCTVとは「Closed Circuit Television」の略です。「内部監視カメラ」ですね。もちろんロンドン地下鉄のすべての車両にもこの警告があります。
ブライトンの町なかからサセックス大学に行くには列車でもいけますが、バスを使うことも出来ます。ブライトンの市バス「25番路線」は大学行きの2階建てバス(double decker)で、運行頻度も多くて便利なのでいつも学生でいっぱいです。このバスの2階席には「Smile please, you’re on Camera」と書いてあります。「監視カメラに写ってます。笑顔で」でしょうか。最初はちょっと違和感を感じましたが「見られているのだから、悪いことするなよ」というメッセージなのですから、これでも良いのでしょう。
よく見ると、イギリスは列車やバスに限らず、建物の出入り口、歩道などあらゆるところCCTVだらけです。日本でも繁華街などに設置されている例もありますが、人々の間には抵抗感が強いように思います。しかしこちらでは普通に生活している限り監視カメラの眼から逃げることはほとんど不可能なようで、人々もこれを受け入れているように思います。日常生活の隅々まで誰かに見られているというのはあまり気持ちの良いものではありませんが、それがなければ犯罪がもっと発生して、自分の生活が脅かされるのであれば、仕方ないとあきらめるしかないのでしょう。
CCTVは防犯目的、つまり悪事をしようとする人が「これが撮られていたら捕まるかも」と思わせることによって犯罪を抑止する効果を狙っているわけで、警察官のパトロールと同様の効果があります。しかし、実際に捕まらなければこの抑止効果は失われます。そこで犯罪が起きた場合はCCTVの記録映像を利用して犯人の特定、捜査が行われます。
ある日、動物虐待の罪で女性が逮捕されたというニュースをやっていました。そのきっかけとなったのが、生きている猫を道路に設置されている収集用のゴミ箱(幅2メートル、深さ1.5メートルの大きな蓋付き容器)に放り込んでいるCCTV映像で、それがテレビでも全国に放映されていました。つまり、住宅街のゴミ箱の近くにもCCTVが設置されているわけです。
視聴者に犯罪映像を見せて、通報を呼びかける番組(Crime Watch)もあります。地方都市の宝石店に押し入ってショーケースをたたき割っている場面や、街角のよろず屋に押し入ってレジからお金を奪っていくシーン、あるいはピザ宅配チェーンに乱入して店員を脅しているシーンなどがCCTV映像として紹介され、「この映像に映っている人物に関する情報があればこちらまで通報願います」という具合です。確かにこれによって逮捕に至るケースもあるのでしょう。いわば西部劇の「お尋ね者(Wanted)」ポスターの現代版ですね。
しかし、犯罪者の方もCCTVがあることを予想して覆面をして犯行に及ぶし、中にはCCTVの設置されている鉄の街路灯を電動のこぎりで切り倒そうとする人(そのシーンがCCTVに記録されているのですが)まで出てくる始末。これはいたちごっこです。確かに、人間によるパトロールと違ってCCTVは24時間常時監視できるので監視効果は高いですが、無限に増やすわけにはいきませんし、昨今の経費削減で既存のCCTVの維持費捻出も難しくなっています。
それにしても、私にとっては上の番組で紹介されたような凶悪犯罪がそんなに頻繁に発生しているという事実の方が驚きでした。手口はきわめて原始的。とにかく鉄のバールなどを持って乱入し、大声でわめいて金を出させ、奪って逃げる(自動車で逃走する場合は、屋外のCCTVにナンバープレートを撮られてしまいます)というものです。捕まるリスクが高いことがわかっていてもこんな計画性のない犯行に追い立てられる人がたくさんいるということに、イギリス社会の病理が潜んでいるように思うのです。【2011/6/17】
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