【ブライトン特急・25】《Zebra crossing》

  ビートルズの有名なレコードのジャケットにアビーロードの横断歩道を四人が渡っている写真がありますね。このアビーロードはロンドンの郊外にありますが、今でも観光客がこの構図で写真を撮ろうとするので、道路が渋滞するそうです。

         さて横断歩道(zebra / pedestrian crossing)の渡り方には、国民性が表れるもので、きまじめな日本人とドイツ人は赤信号の時には、自動車が来なくても待っている、と冗談めかして言われることがありますね。これに対してイギリスでは、車が来なければほぼ確実に歩行者は信号無視をして渡ります。それで車にはねられたら歩行者の過失。自己責任の原則です。

         そうした歩行者を前提としているのか、足下には車の来る歩行がどちらかを明示して「look left」か「look right」と書いてあります。イギリスでは横断歩道を渡るときには通常一方向だけに注意していれば良いのです。これは、一方通行(one way)の道路が多いからです。

         では、大通りなど対面通行の時にはどうすればいいのでしょう。たまに「look both sides」と書いてあるときもありますが、通常はまず「look right」です。イギリスは日本と同じ左側通行ですから、対面交通の道路ではまず右から来る車線を渡ることになるからです。そして、道路の真ん中の安全地帯で歩行者は一旦停止するのです。そして次に「look left」でめでたく道路の反対側にたどり着きます。

         大きな道路の横断歩道にはほぼ必ず真ん中に安全地帯があり、ここに立っているときに自動車にはねられた場合は、自動車に過失があることになるそうです。そして交通量が多い道路の場合は腰の高さまでの鉄の柵で囲われている場合も少なくありません。その場合は安全地帯の両端に二つの横断歩道への出入り口があります。すなわち、歩行者はジグザグに歩かないと反対側に行けず、一本の道路を渡るのに二つの横断歩道を渡ることになります。これは歩行者を「一度で渡らせない」ための設計です。ここにも設計で人の流れを制御する発想が現れていますね。

         幅の広い車道を一度で渡ろうとすると、信号が変わる間際には全力で走って駆け抜けようとする人が出てきます。またお年寄りなどは青信号の間に一度で渡りきれない場合もあり、いずれも大変危険です。そこで、歩行者の流れを一度道の真ん中で中断させるわけです。場合によっては安全地帯の両側の信号が独立している場合もあり、安全地帯に着いてからボタンを押さないと反対側に渡る横断歩道が青信号にならないこともあります。

         観光客もロンドンに到着した初日はまじめに信号を守っていますが、二日目になると見よう見まねで信号無視を始めます。バスの運転手さんたちには頭の痛い状況だと思います。最近はロンドン貸し自転車(Cycle Hire)を観光客も利用出来るようになったので、ますますロンドンの道路は危なっかしくなりつつあります。ちなみに、イギリスでは自転車は専用路がないところでは車道を走らなければなりません。自動車と同様一方通行の逆走はしてはいけないのです(これまた自己責任で無視している人も多いですが)。

         ところで、たとえば三本の大きな道路が交差するロータリーなどでは反対側に行こうとするときには、普通の仕組みだと三本道路を渡るために、六回横断歩道を渡ることになってしまいます。これはいくら何でもまどろっこしいですね。そこで、ロンドンの町中ではすべての方向の歩行者が一斉に渡るスクランブル方式を採用するところが出てきました。これは、ロンドン市長が訪日したときに渋谷の交差点から学んだという説もありますが、真偽のほどは知りません。

         また、週末の都心の繁華街では、歩道も買い物客や観光客で大混雑しています。そこで、歩道にも「ゆっくり路線(slow lane)」と「通過路線(fast Lane)」を作り、ウィンドーショッピングをしたい人と、ただ通り抜けたい人の流れを分離してはどうか、という実験をしている人がいるようです。これもまた設計で人の流れを制御する発想ですね。しかし、これはあんまり評判が良くないようです。歩道くらい勝手気ままに歩きたいですよね。

         さて、基本的に人間の良識を信用しないイギリスの道路にも例外はあります。それは交通量の少ない道路の信号がない横断歩道に見られる「黄色いあんどんポール」です。このポールもやはり白黒のゼブラ模様に塗られていますが、これがあるところは歩行者優先なので、自動車は必ず停止しなければなりません。これはドライバーの良識に依存するシステムです。

         この種の横断歩道を渡るときだけは、私も「さすが紳士の国」とほめてあげたい気持ちになります。【2011/6/14】

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