【ブライトン特急・13】《Networking》

   映画にもなったように、フェイスブックをはじめとするインターネット上の「ソーシャル・ネットワーク」の人気は高まっているし、2011年2月のチュニジアを起点とする一連の「アラブの春」(民主化を求める若者たちの蜂起)でも、国内の見知らぬ人々を動員し、さらに国外からの情報入手・発信に果たすバーチャル・ネットワークの機能が注目されています。


  とはいえ、やはり対面して行うネットワーキングは人間社会の基本です。日本はコネの社会と言われることがありますが、イギリスもやはり人的ネットワークが非常に重要な役割をしている社会だと思います。そのことを端的に表しているのが日本では「懇親会」にあたる英語、Networkingです。

    ロンドンでは毎日、様々な講演会や研究会が行われています。大学などで主催される公開セミナー(public seminar/access course)も多いですが、会員限定の談話会も少なくありません。私が現在会員になっているのは王立国際問題研究所(ChathamHouse)、マイクロファイナンス・クラブ(MicrofinanceClubUK)、金融革新研究所(CSFI)の三つです。これらの主催するセミナーなどでは会議のあとにほぼ必ず懇親会(Networking)の時間があります。
 

   通常ロンドンでのセミナーは午後6時半くらいから始まることが多く、たいてい一時間半で講演と質疑が終わります(日本のようにだらだらと時間が延びることはまずありません)。そして8時くらいからネットワーキングとなるのですが、まず間違いなくワインが出ます。これにカナッペやサンドイッチがつくことも珍しくありません。
 

    研究会のあとにワインなんてあんまり日本では見ないですね。しかもこうした懇親会はすべて無料です。割り勘なんてけちなことは言わないのです。日本では、例えばアジ研のセミナーのあとにアルコールなんて出したら、それだけで「独法いじめ」の餌食になりますが、このあたりはまだイギリスの「余裕」を感じますね。ほとんどの場合、こうしたイベントには「パトロン」がついているので経費が賄えるのですが、あんまりそのパトロンの宣伝はしません。
 

   チャタム・ハウスは外交関係の話題が多く、日本人が報告者になったりすることもあって有名です。マイクロファイナンス(MF)・クラブは、その名の通りMFに関心がある人たちのサークルです。日本でもMF関係者のネットワークはありますがその構成員はおおむねNGO関係の人です。ところがMFUKのすごいところは、NGOや開発関係者ばかりでなく、会員のなかにシティ金融街(The City)のばりばりのバンカーたちがたくさんいるという点です。
 

   こうしたバンカーたちのアクセスを考えてか、MFUKの会合の会場はカナリーワーフ(東京ではお台場に当たるでしょうか)のCITI銀行の本店、シティのど真ん中のスタンダード・チャータード銀行の本店だったり、はたまたシティの由緒正しい教会だったりと、一般人が滅多に入れないところでやるので、会場の見物だけでも私には楽しみです。かの有名なセント・ポール寺院の地下でもセミナーがありました。
 

   一度はセント・マリー・ル・ボウ教会が会場でした。この教会の鐘は1334年からロンドンっ子のために時をつげ続けていたらしくこの「ボウの鐘」の聞こえるところで育った人だけが「生粋のロンドンっ子(Cockney)」を名乗れるという代物です。その教会の築600年の石造りの聖堂の高い天井から十字架のイエス様がぶら下がっている下で、ケニアの携帯送金システム(M-peas)について議論したのです。
 

   冬だったし、だだっ広いホールなので底冷えしましたが、いかにも中世ヨーロッパ的な空間で、現代途上国のファイナンス問題を語るというミスマッチがとても印象深かったです。もちろん、そのあともワイン付きのネットワーキングがありました。
 

   さらに敷居の高いのはCFSIで、スポンサーにイングランド銀行がいるくらいで会員はほとんどバンカーのみ。年齢も高めで、男性でスーツを着ていない人はまずいません。この組織の会合は「ラウンドテーブル」形式が多く、シティの由緒正しい建物(個人では維持しきれなくなって財団を設立し、維持管理経費をまかなうために宴会場、会議場として営業しているところがいくつかあります)の、ダイニングホールのようなところが会場です。
 

    年代物の暖炉があり、天井からはシャンデリアがぶら下がっている部屋の大テーブルを囲んできちんと席に着き、目の前にはワイン、紅茶、サンドイッチが並んでいるという設定の中で、講演と質疑応答があります。あるときのテーマは「ロンドン社会的株式市場の創設は可能か」でした。
 

   これは、逆立ちしても日本では出来ないセッティングですね(もちろん、日本のエグゼクティブの方々はこれに近い道具立ての朝食会などをするのでしょうが、場所がホテルの宴会場では荘厳さが違います)。また、「社会的株式市場」などという発想が銀行マンたちに受け入れられそうにありません。
 

   ラウンドテーブルでは隣の席に座った人と、自ずとネットワーキングが出来ますが、それ以外の場合は、まだこうしたネットワーキングの機会を十分に活用できていません。一つには英語に自信がないこともありますが、生来の人見知り(皆さん信じてくれませんが、ほんとですってば)もあって、なかなか話しかけるきっかけがつかめないのです。何人か知り合いがいれば、その人を糸口につきあいも広がるのですが、一年住んでいるくらいではなかなか知り合いも増えません。
 

    こうした場で、面白い発言した人を狙ってワイン片手に軽快に近づき、上品なジョークの一つも織り交ぜながら、意見交換をして新たな知り合いを増やしていく、というのが私の「英会話研修」の究極目標の一つなのですが・・・。【2011/6/2】

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satokan
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