【ブライトン特急・14】《Oyster》
オイスターカード(Oyster Card)は、東京のスイカ、パスモなどと同様のロンドンの乗り物用前払い磁気カードです。発売しているのはロンドン交通局(Transport for London: TFL)で、導入は日本よりも後でしたが、日本のシステムと違って現金よりも格段に安くなるので近年急速に普及しています。
たとえば、ロンドン市内の中心エリア(Zone 1)の地下鉄料金は券売機でチケットを買うと4ポンドですが、オイスターなら1.9ポンドと半額以下です。また、バスは一乗り2.2ポンド(乗車前にバス停の券売機で買わなければなりません)ですが、オイスターを使って乗ると1.3ポンドと4割引。しかも同じ日にバスに何度乗っても7.2ポンド以上は課金されません。これは一日券と同じ価格設定です。さらに、テムズ川の水上バス(Thames clippers)もやはり1割引で乗れます。
地下鉄もバスも運営するのは日本の大都市の自治体と同じですが、ロンドンには民間路線バスも地下鉄もないので、TFLは独占企業です。ただ、地下鉄は交通局の直営なのに対して、バスは路線ごとに民間の運行会社に委託しているので、同じデザインの赤い2階建て(Double Decker)ロンドンバスでも、運転手はそれぞれの運行会社の社員です。
このロンドン地下鉄(Underground)は最近よく終日ストをするので評判が芳しくありません。また、特に週末はしょっちゅう「計画整備(Planned Closure)」で一つのラインが丸々運休ということもしょっちゅうです。これを知らずにうっかり出かけようとすると立ち往生してしまいます。これは日本ではあまり考えられませんね。これに対してバスは民間委託なので、ストはなく地下鉄ストの日も通常通り運行しています。
TFLを統括しているのはロンドン市長で、駅で配布している地下鉄路線図にも必ずMayor of Londonの文字が書いてあります。TFLはこの他に2010年から貸し自転車(Cycle Hire)の運用も開始し(実際の運営は民間会社に委託しています)、さらに2013年からは共有電気自動車と充電ステーション網も運営を開始する予定です。
現市長のボリス・ジョンソン氏は都市交通革命に力が入っているようで、TFLは世界最大の総合交通事業体と言えるでしょう。その収益源が今やオイスターカードというわけです。 先日のロイヤルウエディングの時には、ウィリアム王子とキャサリン妃の婚約写真を印刷した「記念版オイスターカード」を販売して、観光客に大人気だったようです。
地下鉄ではオイスターカードは改札口を出入りする時にタッチするので、まず不正はありませんが、ワンマンバスではドライバーの隙を盗んだ無賃乗車があり得ます。特に最近増えている二両連結のタンデムバスでは、後ろの方のから乗った人が入り口の読み取り機にタッチしない光景をよく見ます。他の客は見て見ぬふりをしていますし、ドライバーもいちいちかまっていられないという様子。これも日本ではなかなか考えられませんね。
日本では、不正が出来ない仕組みを作ろうとします(乗るときは運転席のドアからしか乗れないようにする、すべての駅に自動改札口を設置する)が、こちらの郊外列車では改札口に駅員がおらず、ゲートが開けっ放しのこともあります。そのかわり抜き打ちで検札をして、不正乗車がみつかるとしこたま罰金(penalty fare)を搾り取ることで予防し、また他の人の不正分も取り戻そうとしているようです。ある意味、性悪説に基づいているといっても良いかもしれません。ロンドンバスもこの抜き打ち検札があるようで、これに懲りたある人は常にカード読み取り機のそばに立ち、検察が来たら素早くタッチするという戦略をとっているそうです。
ところで、なぜオイスター(蠣)という名前なのでしょう。たぶんこれはシェイクスピアから来ています。シェイクスピアの喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」の中で、「この世はおいらの蠣だ」という台詞があり、ここから転じてオイスターが「自分の思いのまま」という意味で使われることがあるようです。もちろん、ロンドンっ子がみんなシェイクスピアの素養を持っているわけではありませんが、粋な名前の付け方ですね。【2011/6/3】
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