【ブライトン特急・48】《Westminster Council》

         私の家は、Pimlicoと呼ばれる地域にありますが、行政的にはロンドンの中に32ある行政区(borough)のうちの一つWestminsterに属します。ウェストミンスターはロンドンの中心部に位置し、地域内に国会議事堂、政府官公庁、王宮なども含むので特別にcityの格が与えられていますが、業務は他の行政区やロンドン以外の通常の自治体(council)と同様です。

         カウンシルの機能は多岐にわたります。まず、アパートに入居するとすぐにカウンシル・オフィスから税金(Council Tax)の請求書が届きました。地域内のすべてのアパートに誰が入居しているのかをカウンシルは把握して、新規入居者があるとこうして税金を請求するのです。これが、様々な行政サービスの原資になります。

         すでにお話ししたとおりゴミ集めや道路清掃人(street cleaner)の業務はカウンシルの仕事ですが、入居後しばらくしてカウンシルから、リサイクル啓蒙の人が訪れました。ゴミ分別のパンフレットとリサイクル専用の青いプラスチック袋を各戸にいくつか無料で配布して「足りなくなったら、いつでもカウンシルに請求してください」とのこと。サセックス大学関係者の大半が住むブライトンはBrighton&Hoveカウンシルに属しますが、ゴミの出し方はカウンシルごとに異なっており、こちらでは家の番号が記された緑の箱に入れて、収集日に家の前に出すことになってます。

         またたいていのカウンシルでは2-3ヶ月に一度広報誌が届きます。その中には、カウンシル内の様々なイベントのお知らせがあったり、カルチャー教室のような行事の案内があったりします。公設スポーツセンター、図書館などもカウンシルが運営しています。

         ある日カウンシルから「選挙人登録確認書」が届きました。質問用紙が同封されており、これを返送するか、ウェブで回答するかしないといけません。そしてこの文書には「この書式に反応しないと罰金1000£」と書いてありました。私のように市民権も国籍も持っていなくて、投票できない人も、確実に回答しないといけないのだそうです。罰金によって秩序を維持する世界の一端が垣間見られますね。

         治安維持もカウンシルの重要な仕事です。もちろんロンドン全域の警察権はロンドン警察(Metropolitan Police)にありますが、ウェストミンスター・カウンシルも独自に警備員(civil enforcement officer)を雇用して、警察官と同じような格好で巡回させていますし、カウンシル内にある20の選挙区(Ward: ピムリコもその一つで、それぞれから3名の議員が選ばれます)ごとに地域のボランティア的な自警員も任命されています。

         その他にカウンシルの重要な業務としては、地域内の低所得者層に対する福祉、安価な住居の提供などがあります。NHSの業務は直接カウンシルとはつながっていないようですが福祉はカウンシルの職掌で、地方のカウンシルではお年寄りが買い物に行くために定期的なバスサービスをするところもあるようです。これは日本でも同様ですね。

         また、すでにお話ししたようにスーパーマーケットなどの出店計画を審査して承認するかどうかを決めるのも、都市開発の計画を立案するのもカウンシルの責任です。ブライトンの町はリゾート地として古くから有名ですが、最近は施設の老朽化などでイングランド南部の他の町に客を取られ気味です。そこで、観光業の再興のためには思い切った都市再開発計画が必要なのですが、ブライトン&ホーブのカウンシルにはリベラルな土地柄を反映して様々な意見の人が存在し、商業主義的な開発計画には常に反対がつきまとうのだそうです。このため、なかなか振興計画が進まないことを地元のビジネスマンは嘆いています。

         カウンシルは落書き(graffiti)の規制にも責任があります。ウィキペデイアのウェストミンスター市の項目に、大変興味深い記事がありました。バンクシー(Banksy)というのは、有名なストリート・アーティストで、落書きを公共物破損(Vandalism)と見なすことに反対しているのだそうです。このバンクシーが2008年に、ソーホー(ウェストミンスターのワードの一つです)の郵便局(Royal Mail)の壁に足場を組んで一晩で「One Nation Under CCTV」(CCTVの下に統括される国家)という巨大な落書きをしました。これをデイリー・メール紙は「傑作である」と報じたのですが、カウンシルは「書いた人間がどのような有名人であっても、落書きをする権利がないのは子供と同じである」と表明、一年後にこれを塗りつぶしたそうです。

         確かに、この落書きを例外的に認めてしまえば、同様のことをする人が増えて収拾がつかない事態になることは目に見えています。表現の自由を尊重しつつ、地域住民の生活を守るという義務を遂行するのは、なかなか容易なことではありませんね。【2011/7/7】

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