【ブライトン特急・11】《Lollipop》

  Lollipopというのは「棒付きキャンディー」「ペロペロキャンディー」ですが、これと同じ形状の標識円板のこともそう呼ぶらしく、通学児童の横断歩道通行時に子供のシルエットと”stop”の文字の入った円板を持って誘導する人をLollipop man/ladyと言うそうです。

    Lollipop ladyを「緑のおばさん」と訳している辞書もあります。なるほど。緑のおばさんは、昭和三十年代の高度成長期に急激に自動車事故が増えたときにこれを防止するために日本で生まれた仕組みで、登下校時に横断歩道で緑の小旗を持って学童を誘導していました。この原点はもしかしたらlollipop ladyにあったのかもしれませんね。 ロリポップ・ワーカーの経費は通常地区自治体(council)が賄っているのですが、昨今の経費削減で人員が減らされる傾向にあるのはどこも同じで、これに伴って子供のけがが増えることが心配されているようです。

    横断歩道用とは別のロリポップは、鉄道の駅員が使っています。日本ではホームに立っている駅員さんが車掌に安全確認をするときには灯火(今はハロゲンライトでしょうか)を用いますが、こちらでは白い棒付き円板を上下に振ることで安全確認しています。

    地下鉄ではこの円板を振りながら駅員がマイクで”Mind the gap”と言います。これはホームと電車との間の「すきま(gap)」に気をつけろという意味で「足下にご注意ください」に当たりますが、その言い方・アクセントが独特でロンドン地下鉄の合い言葉のようになっています。ロンドン土産のTシャツなどにもこの言葉が、赤い円に青の横棒の地下鉄ロゴとともにプリントされています。

  他にロンドン地下鉄(underground)の車内放送の決まり文句で特徴的なのは、”stand clear (of the closing doors)”「閉まるドアにご注意ください」です。これも独特のイントネーションがあって、歌うように言うのですが”stand clear”という言い回しには、「ドアが閉まるのを邪魔するな」というニュアンスがあって、日本人的にはない発想ではないでしょうか。

   これは、「車庫前につき駐車ご遠慮ください」の”keep clear”と同じ使い方です。普通この注意書きには”the garage is in constant use”「車の出入りが常にあります」という文句がついています。そういえば晴天を”clear sky”といいますが、こういうときのclearには「邪魔するものが何もない」というニュアンスが共通なのでしょう。

  イギリス人はこの「行く手を遮るものがない」状態が好きなのかもしれませんね。だとすると江戸時代の大名行列の先触れ「下にー、したにぃー」をイギリス人が訳したら”sit clear”になるのでしょうか。clear にどことなく権力性を感じ取るのは深読みかもしれませんけど。【2011/5/31】

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