【ブライトン特急・10】《Kindle》

 日本に来た外国人にとってずいぶん奇異にうつる光景の一つに、「通勤電車の中でみんな寝ているかマンガを読んでいる」というのがあるようです。確かに、イギリスでは電車の中ではそんなに多くの人が居眠りしているわけではありませんし、漫画を読んでいる人はまずいません。その代わり新聞や小説を読んでいる人がとても多いのです。

  これは通勤列車の中でもロンドンの地下鉄の中でも同じです。 座席に前の客が置いていった新聞があれば当然拾い上げて読むし、隣に座っている人が新聞を読み終わったと見ると「読んで良い?」ともらって読み始めます。この新聞好きはスーツ着た人から労働者風の人までみんなに共通です。一種の「活字中毒」かもしれません。

 そもそも、こちらの新聞は日本のように宅配は一般的でなく、新聞は家の近くのよろず屋(News Agents)で買うのが普通のようです。なので、公共交通機関に乗っている時間を新聞読みにあてるのは合理的なのでしょう。またロンドンでは朝はMetro、夕方はEvening Standardという無料紙が主な駅で配布されており、みんなそれを取っていきます。

 また駅の売店でも新聞を販売していますが、その種類の多さは日本とは比べものになりません。それぞれの新聞に政治的、階級的特徴があり、皆さん自分のひいきの新聞がいくつかあるようです。ロンドンで売っている普通の新聞は1ポンドで、Financial Timesは2ポンド、ブライトンの地元紙The Argusは42ペンスです。 活字中毒は新聞に限らず、小説もよく読んでいて分厚いペパーバックに読みふけっているのは中年以上の人に多いようです。

 そして、2010年頃から急に増えてきたのは電子書籍。その筆頭がアマゾンのキンドル(Kindle)で、こちらはさすがに若者が多いですが地下鉄やブライトン特急でもずいぶん目にします。うたい文句は「3500冊で247グラム」。 私も、帰国するときになるべく荷物が増えないようにと、英語の本はkindleで買うようにしています。すべての本が電子化されているわけではありませんが、ある程度有名な本なら電子バージョンで買えるし(価格は紙の本より少し安めです)、カードで決済をしたとたんにダウンロードできるのですぐに読みたい時にはとても便利です。ただし今のところ英語の本に限られています。

 たしかに、数冊の読みかけの本をいつでも持ち歩き、暇があったら読むことが出来るというのは便利ですが、問題はある程度買うといったい自分が何を買ったのかがわからなくなってしまうこと。やはり、現物が本棚に並んでいる方が使いやすいですね。

 いずれにせよこうした電子機器に対して、イギリス人は日本人より抵抗なく飛びつくようで、伝統に固執すると同時に彼らはかなりの「ハイテク好き」でもあると思います。 ハイテク好きと言えばサセックス大学の開発研究所(IDS)の研究者のほとんどがアイフォン(iPhon)を持っているのも、私にはかなりの驚きでした。年齢に関係なく、60代の研究者もほとんどの人がこれを使いこなしているようです。というのも、彼らは毎日研究所に来る必要はないので、研究所に来るメールをiPhoneに転送して、そこから返信してくるのです。また、研究上の打ち合わせをするときも、こちらが送っておいた論文などのファイルをiPhoneでダウンロードして、それを見ながら話をする、という光景にも出くわしたことがあります。いちいち論文をプリントアウトして持ち歩く必要はないので合理的ではありますね。

 ただ、これほど気軽に使えるのは、彼らの主に用いる言語媒体が英語であるという事情と無関係ではないと思います。 もちろん、今ではiPhoneも日本語フォントで通信出来るし、ファイルもダウンロードできますが、日本人以外には使えないのが悩みの種です。そこで、私が夢想しているのはiPhoneをはじめとするスマートファンに「自動翻訳機能」をつけてしまうこと。こちらが日本語で入力してメッセージを送信すると、相手のスマートフォンには相手の言語で表示されるようになったら、かなり楽ちんですよね。

 そうしたテクノロジーが開発され、実用化されるとしたらそれはやはり「ハイテク大国」日本以外にないのじゃないかなあ、と思うのですが・・・・。【2010/5/30】

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