【ブライトン特急・40】《Obesity》

  肥満は先進国に共通な現象ですが、イギリスに来て見ると日本ではまずお目にかからないレベルの肥満体の人に地下鉄などでしばしば遭遇します。本当にビール樽のような胴体、隙間なく密着した太い両足、あごが埋没した首などの様子を見ていると、これで支障なく日常生活が送れるのだろうかと人ごとながら心配になります。

   当然ながら、普通の体格の人と同様の生活は送りにくいわけで、こうした肥満は「病的な肥満(obesity)」と呼ばれます。そしてイギリスのobesity率は男性で33%、女性で28%に達しているという統計があります。    

   なぜこんなことになるのかといえば、当然食事と運動のバランスが悪いわけですが、イギリスで普通の食生活を送る限りこのリスクはついて回ります。朝食(English Breakfast)でベーコン&エッグ、ソーセージ、マッシュルームを食べたあとのお皿は油で光っています。そしてお昼にフィッシュアンド・チップス(Fish and Chips)でも食べれば、魚もポテトも油で揚げてありますから、脂っこいことこのうえありません。仕上げに夜はパブでビールを飲めば脂肪・カロリーのオンパレードです。

   間食用のジャンクフードにも事欠きません。テレビを見る時にはポテトチップス(この場合のチップスは、日本にもあるようなジャガイモの薄切りを工場で揚げたもの)やポップコーンがつきもののようです。またイギリス人のチョコレート好きは尋常ではなく、スーパーのチョコレートコーナーにはこれでもかというほどの種類が並んでいます(だからこそフェアトレード・チョコレートの市場は巨大なのです)し、雑貨屋のレジの前の一番目立つところにもチョコレートが必ず置かれています。その上、色つき砂糖水も氾濫しています。日本ではあんまり売れそうもない毒々しい色の清涼飲料水のペットボトルを持ち歩いている若者も少なくありません。

  忘れてはいけないのがビスケット。アフタヌーン・ティーにつきものであるばかりでなく、一般家庭には常にビスケット缶(Biscuit tin)が常備されていて学校から帰った子供がつまめるようになっているようです。日本ならさしずめお煎餅缶でしょうか。スコットランド名産ショートブレッド(short bread)は、バターをたっぷり入れたクッキーです。shortには「短い」という意味の他に「砕けやすい」という意味があり、さくさく感を出すためにshorteningと呼ばれる脂肪を使います。だからショートブレッドなのですね。当然カロリーは高くなります。

  こうしたものを食べ続け、運動をせずにいれば肥満への道をまっしぐらということになります。そうなりたくない人も多いので、痩身のために脂肪・高カロリーを避ける人も増えてきますし、暇を見つけてジョギングする人や、移動に自転車を使う人も増えるわけです。イギリスにベジタリアンが多いのは、肥満の人が多いことの鏡像なのかもしれませんし、町中でジョギングしている人が日本とは比べものにならないほど多いのも肥満に対する恐れがより大きいからかもしれません。

  ただ興味深いことに、大学のキャンパスには肥満の人はそれほど目立ちません。学生の中にはランチにリンゴやバナナしか食べていない人もよく見かけます。ここにも、知識階級は痩身が多く、労働者階級には肥満が多い、という階級社会の一端がのぞいているのかもしれませんね。【2011/6/29】

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