【ブライトン特急・5】《Folding Bike》

  Bikeはこちらでは自転車をもっぱら指します。Bicycle →Bikeとなったのでしょう。日本で言うバイクはMotor cycleです。サセックス大学の周辺ではもちろん学生がバス代を浮かせるために乗っていますが、ロンドンのビジネス街でもかなり自転車が目立ちます。ぴかぴかのスーツ姿が標準の金融街(The city)の真ん中でも、スーツを着た男性がリュックを背負って自転車に乗っている姿に出会うことは珍しくありません。

   女性も結構乗っています。ただし、日本のように「ママチャリ」でお買い物に行くという使い方ではなく、あくまでも通勤用。自転車を降りたらスニーカーをピンヒールに履き替えそうないでたちです。彼らはたいてい自転車用のヘルメットをかぶっていますが、スーツ姿に自転車用ヘルメットはなかなか面白い取り合わせです。さらにオレンジや黄色の蛍光色のぺらぺらのジャケット(Reflection Jacket)を着れば、自動車からも視認性が高く、より安全になるようです。


 通勤に自転車を使っている場合、郊外に住んでいる人は全行程を自転車というのはなかなか困難です。それでもロンドン市内の移動は自転車にしたければ、通勤電車に自転車を持ち込むという行動に出ます。日本ではまだまだ自転車を列車に持ち込むことは一般的ではありませんね。そもそも混んでいる通勤列車に自転車なんて持ち込んだらひんしゅくです。しかし、イギリスでは中距離以上の列車に自転車を持ち込むことは一般的です(それほど多くの人が実践しているわけではありませんが、少なくとも迷惑顔で見られることはありません)。

   ブライトン特急でも、新しいタイプの列車の場合4両おきに自転車を止められるスペースのある車両が連結されています(通常ブライトン特急は8両編成か12両編成です)。このスペースには二台の自転車がベルトで固定できるようになっています。もっぱらブライトンからロンドンに通勤している人のためのサービスでしょう。しかし古い車両の場合はそうしたスペースがなく、自転車はドア口付近のスペースに置いて手で支えていなければなりません。この場合は時刻表に「折りたたみ自転車(Folding Bike)のみ持ち込み可」と書いてあることがあります。

  さてこの折りたたみ自転車、ロンドンでは静かに流行中。一般的なのは、ペダルのある部分を中心にして後輪と前輪が折り重なり、ハンドルも折れてほぼ車輪一つ分の大きさになり、サドルの部分を持って運べるようになっているものです(折りたたんだサイズは縦横60cm四方以内です)。車輪は40センチ程度とかなり小さめで、これ、走っている姿を見ていると結構かっこいいし、駅の構内で持ち運んでいる姿も粋に見えます。

  そこで私もロンドンっ子(Londoner)みたいにこれを乗り回してみようと思い、最新流行のプロンプトン(Brompton)社の折りたたみ自転車を一台求めました。総重量10キロ。最軽量の車種です。もちろん、ヘルメットに蛍光ジャケットに手袋も新調です。さらに前照灯(白色と決められています)、後照灯(赤色と決められています)もつけなければなりません。

   極めつけは車輪止め(lock)。ロンドンでも自転車の盗難はしばしば起こります。この対策のために自転車は駐輪柵にワイヤーや大きな鉄輪のような錠でくくりつけなければなりません。それも、簡単に壊せるようなものでは駄目なのです。何しろ最新型のプロンプトンですから。そこで、重さ2キロもある頑丈な鉄の車輪止めを買いました(車体重量が10㌔なのに2㌔の車輪止めを持ち運ぶのは何だがばかばかしいですが)。しめて××万円。日本に安チケットで往復できる額を遙かにしのぐ出費ですが、まあLondonerは見栄っ張りでないとつとまりませんから(この自転車ご関心のある方は http://www.brompton.co.uk をご覧ください)。
 

   実際に乗ってみると、確かに軽くてすいすい走りますが、ハンドルの位置が低いので長時間乗り回すと腰に悪そうです。なので、私は近所のスポーツジムに行くときにもっぱら使っています。ところでイギリスの自転車にはスタンドがついていないので、どこにでも止めるというわけにはいきません。繁華街の所々にある公共の駐輪所には太い「コの字」状のパイプが、地面に向かって突き刺してあり、その足の部分に車輪止めでくくりつけるようになっています。

 このパイプにもたれかかるようにして固定するので、一つのパイプには両側を利用しても二台しかつなげません。あとは、道路脇の鉄格子や街路灯のポールを利用している人もいます。いずれにせよ、日本の駅前の迷惑駐輪のような状況は起こりません。つまり、自転車の総数はそれほど多くないということですね。
 

  なぜ、こうした止め方をするのでしょうか。私の説は「馬の代わりだから」。この国ではまだ馬も現役で人を乗せています。そうした馬はもともと、道ばたの「馬止め」にくくりつけていたわけで、自転車が近代版の馬として登場したならこの同じ発想で「つなぎととめる」ことにしたのではないか。そう考えてみると、学生はともかくロンドンで自転車に乗っているのが中流以上の人だと言うことも、スーツ姿で乗り、ヘルメットをかぶるのも何となく合点がいく気がします。


 そもそも現代の自転車の原型は19世紀後半の西欧で開発され、イギリスは1880年に郵便配達に採用、1896年に警官のパトロールに採用したそうです。そういえばシャーロック・ホームズにも、当時社会に登場したばかりの自転車がトリックに登場する話がありましたね。【2011/5/24】  

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