【ブライトン特急・最終回】《Albion》

         2011年7月、サセックス大学とブライトン大学の最寄り駅であるファルマーの駅前に新たなサッカー場が完成しました。このグランドを本拠地にするのは地元ブライトン&ホーブ市のThe Seagullsです。

         もともとBrightonとHoveは別々の町でしたが、ブライトンの拡張に伴ってホーブを取り込む形で一つの市になりました。ブライトン・ホーブ市のロゴはRoyal Pavilion のシルエットです。このパビリオンは「芸術の庇護者」とも言われるジョージ四世が、皇太子であった1787年に建設を開始し、父(ジョージ三世)の精神病で摂政皇太子(Prince Regent)となった時代(1811年~1820年)を経て、王位に就いた後ようやく1823年に完成しています。

         この摂政皇太子が好んだ装飾過多の建築様式をRegency styleと言いますが、ブライトンのパビリオンもかなり手の込んだインド様式のドームとミナレット(尖塔)で飾り立てられており、東洋趣味あふれる建物です。ロンドンのリージェントストリートとリージェンツ(Regent’s)公園もやはりこのジョージ四世にちなんでいますが、ブライトンにも海に面したリージェント広場があります。かつてはその海岸に1866年建設の西桟橋(West Pier)があり、劇場などの娯楽施設を備えて1920年代~30年代はブライトン観光の黄金時代を謳歌したそうです。その後老朽化に伴って1975年に閉鎖され、さらに2003年の火事で丸焼けになって鉄骨だけが残っています。ところが、さすが芸術家の町ブライトン、これはこれでモニュメントとして楽しまれています。

         ところでサッカーのThe Seagullsは海辺の町らしい愛称ですが、チームの正式名称は Albionです。アルビオンとは詩などで用いられるブリテン島の古名で、その意味は「白い島」。その昔ローマ人がやってきて上陸しようとしたとき、イングランド南部の石灰質(Chalk)の岸が白いことに印象づけられての命名でしょう。イングランド南部では、丘陵地帯(Downs)が突然途切れて海になるところが多いので、海岸は絶壁となり、石灰質なので真っ白な壁のように見えるのです。

        英仏海峡のイギリス側ドーバーも白い絶壁(White Cliff)で有名ですが、ブライトンの少し東にあるセブンシスターズ(Seven Sisters)も絶景です。海から屏風のようにそそり立った白い崖が七人の姉妹が並んで立っているように見えるところからこの名がついていますが、青い海、白い崖、崖の上の緑の草地、青い空と白い雲のコントラストはかなりの迫力があります。

         もっとも、ブライトンの海岸は絶壁ではなく玉砂利の浜辺で(幅はせいぜい100メートルくらいですが、東西に数キロ続いています)、だからこそ海岸保養地として発達したのですが、町の中心部は海から少し上がった丘に展開しています。駅も丘側にあるので列車を降りて海岸に向かうには、だらだらの坂道を下ることになります。

        しばらく歩くと 建物の間から海が見えて来るのですが、初めのうち水平線(Horizon)は視線よりもかなり高いところに見えます。坂道なので当然なのでしょうが、私にとってはこの目の高さより高い水平線はいつも小さな驚きを与えてくれます。「水平線の彼方に(Over the Horizon)」というと、遙か彼方にこぎ出していくイメージですが、目の高さより高い水平線の場合は、高く飛び上がって越えることが出来るのではないかと、これを見るたびにちょっと飛び上がってみたくなります。

         さて、このシリーズ【ブライトン特急】は目標の50回を達成し、私も今週末には日本に帰国することになりましたので、これで最終回とさせて頂きます。毎日お読み頂いた皆さん、ありがとうございました。皆さんと日本でお目にかかることを楽しみにしています。
【2011/7/11】

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satokan
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